PATINA「緑青」3

指示通りに辿り着いた先にはまた別の番人がいて、
水色の招待券の回収をしていました。
引き換えに渡されたのが、龍を彫刻した水晶玉でした。
直径10センチほどのそれは、見れば観るほど美しく、
空にかざすと、龍はまるで呼吸をしているように見えるのです。


回収係の番人に聞くと、この小龍は彫刻ではなく、
今睡眠状態にあるれっきとした生物で、
3泊4日の滞在期間中の守護神になるのだといいます。
はたしてどんな働きをするものなのだろう、と。
番人の顔を見ても相変らず無表情な面持ちで、
粛々と事務手続きをするばかり。
龍にとらわれていると今度はピンク色の紙袋を渡されました。
中を確認するようにいわれ、
取りだすと、そこには滞在するホテルの住所と、
3日分のバイキング朝食券、
貸し出し用パソコン、地域振興券、メモ帳、
筆記用具などの引換券と共に、地図が入っていました。


回収係の番人は渡すものを渡すと、
自分の仕事はこれでお終いといわんばかりに先に進むように、
目配せをし、道に出るように促すのです。
そして、私は眠る小龍と引換券をバッグにしまい、
番人の目の先にある道に繰り出しました。


はじめに話しましたように、
この国には大小さまざまな人が存在しています。
姿形はそれぞれで、
動物やら虫やらそういう人以外の形ある生命体にも、
知恵があり、言語を持っていました。
不思議なことに共通の言葉はないのですが、
テレパシーというのでしょうか、
意識の交換というのでしょうか、
目と目が合えば、意思の疎通ができるようでした。


しかし、そのような雑多な世界における秩序の統制は
なかなかに難しいようにも見えます。
日本猿の警官の神経質ぶりを見ると、他人事ながら、
苦労しているのだなぁと、思うのです。


とりあえず、指定のホテルに向かう事にしました。
番人にお礼を言おうと思って振り返ると、
すでに番人の姿もゴンドラも無くなっており、
いつものみなれた鉄塔がそびえているばかりでした。


バッグにしまった水晶玉の小龍は、
ときどきバッグの蓋の隙間から、
緑色の美しい瞳をのぞかせ、空の彼方を凝視するのでした。

patina「緑青」2

その時私は自然とはなにか、
生きるとはなにか、と考えていたのです。
好んで禅問答はするものです。
それが私の流儀です。
すると、いつか現われた時の番人が
タバコの煙とともに突然姿を見せました。
(そうそう、時の番人とはイスラームの世界で言う
超自然の存在「ジン」のようなものです。)


時の番人は、私の前でおもむろに胸を張るのです。
その姿はふてぶてしい。
まるで、親切を押し付け、
自己陶酔する奇っ怪な人のように。


番人はおもむろに水色の紙を取りだし、
するりと私に渡すのです。
その紙には、
「特賞! 夢の国3泊4日ご招待」
と書いてありました。
番人の顔をのぞき込むと、
番人は読んでの通りだと言う顔をし、
ことさら得意げです。


特に望みもしないその招待券には条件がありました。
「自分により似ている人を3泊4日で見つけ出すこと」。
さらに、期日内に探し出せない場合は、
「時をさまよう時空の無法者に化す」
という恐ろしいペナルティ付きです。


番人の思惑が何処にあるのか、探ろうと思いましたが、
得意満面の番人はただの誰かの使い。
私はそれ以上の詮索をやめ、
あろうことか、従うことにしたのです。


だっておもしろそうではないですか。
私を探すのです。
自分探しはとっくにやめていましたのに。
思わぬ所で青春の日々が蘇ったみたい。


すなおさと愛嬌があればこの世は渡っていけるという、
賢母の教えをこの年まで守り通してきた私は、
時の番人からその招待券を素直に頂戴したのです。


さて、その方法です。
まず、白い服を着て、
街の中で一番高い鉄塔の下に行き、
番人の仲間の誘導に従い、鉄塔によじ登り、
鉄塔のてっぺんで待ちかまえているまた違う仲間に券を渡す。
電線づたいにゴンドラに揺られ、15分たった所で、
1分間息を止め、目をつぶること。
嘘のようなその経路に感心しましたが、
感電しないようにとの注意に、
身の毛がよだち、気も引き締まるのでした。


余談ですがここで、はたと思いました。
番人にも仲間がいて、各々仕事をしているのだと。
番人たちは合理的に組織化されていて、
時空をさまよっているのだと。


いやいや、そんなことより、夢の国です。


私は一度家に戻り、
言われたとおりに白い服を着て、
最近できた近所の高い鉄塔の下に行き、
くだんの方法を実行に移しました。


それで、たどり着いたのがココだったというわけです。

patina「緑青」1

私はとある偶然から夢の国へ行きました。


その国が何処にあるかといいますと、
高架線の鉄塔の頂上からゴンドラに乗って、
電線づたいに揺られて、たどり着いたどこかです。
古都鎌倉の時空をさまよう谷戸の中かも知れませんし、
空と海がくっついてできた結晶体の中かも知れません。
あるいは水の中に沈んだ縄文遺跡だったかも知れません。


たどり着いた国には街がありました。
車は走っておりませんでした。
そのかわりといっては変ですが、
目を合わすととたんにキレる、
短気な日本猿の警官が、スタバのようなカフェの前で
タバコをぷかぷか吸っていたり、
虫眼鏡を持った奇妙な猫の集団が
道端の草を盛んに観察していたりしています。


人間もいましたが、その大抵は、
いばりん坊の子供のような人たちで、
なぜか体を斜めに傾けて、
あれこれと、つぶやきながら歩いています。
ふと見渡すと、そんな人がたくさんおりまして、
そのつぶやきは響きあい、
小学校の音楽室から漏れてくる
子供たちの合唱のようにも聞こえます。



ところが、子供に見えた人たちはみな成人だったのです。
びっくり仰天です。
よくみると、中には大人の姿の人もおりました。
小さい人も大きい人も年齢が分かりません。
私は目を凝らしてその人々を眺めたのです。



私はこの中からある人を探しださなければなりません。



きてれつなこのお話のはじまりは、
すこぶる美しい、とある晩下の河原ではじまりました。
いつもの河原で私はタバコをふかしていたのです。
ぷかぷかと。

グッドラック

ある日、若い青年とサシで飲みました。
恋する気持ちのあれこれを、
彼は幸せそうに話すのでありました。

いままさに恋です。

2つ年上の女性に恋焦がれているのです。
紅潮し、蒸留された思いを伝える言葉は、
耳を塞ぎたくなるほど恥ずかしいものでした。
あふれ出た女性への賛辞は、
焼鳥屋の油っぽいテーブルの上で
躍っており。

しかし。
聞くほどにその恋は成就できないと思われる。
むしろ彼は嫌われているのじゃないか。


嗚呼 しかし。
彼には崇高で希望にひた走る光景が見えているのです。
彼女はほとんど彼の手中に収まったという、その物言い。
これは現実的なことだと彼は言う。


「いや、それは可視ではないよ」


咽まで出かけたその言葉は、
焼き鳥の串入れの中で絡まり、
まごついた。


どんなものか。


寝ても覚めても好きな人を思う。
体も脳も鼓動も汗も、恋する熱情で作られる。
息もつけない微熱の欲望。


それならば、グッドラック。
恋に秘術はないものです。


グッドラック。
グッドラック。

沖縄



沖縄に行ってきました。
取材でしたが、沖縄の天地人を満喫。


ちゅら海水族館が圧巻でした。
水族館の取材がけっこう多くて、
ずいぶんいろんな所に行きましたが、
ここのジンベイザメがすごい。
すこぶる大きい。やたら大きい。


なのに、エサはオキアミやプランクトンです。
写真がなくて残念です。


水の生きものには勝てないな〜
ゆうゆうと水の中を泳ぐ。
その優美に泳ぐ姿は美しすぎます。


夕陽の写真は本部町あたりの小さな漁港です。

ありがとう


今年の夏に 捧げた時間
ひとつ前の季節を思い
はぁーふっーう と 深呼吸



悪夢のような日々でした
かなりかなりの夏でした
でも でも


鎌倉の青い空
夕立に光る稲妻
汗だくの取材
ありがとうの言葉


絵のように広がる自然の中で
温かいふれあいがありました


海の神様も
山の神様も
畑の神様も
車の神様も
道端の神様も
みんな総出でいらっしゃる


体は きゅうきゅう いったけど
守られて過ぎた夏でした
すこぶるつきの夏でした


すべての神様
お世話になった方々
みんなに ありがとう
完成しましたよ


もう秋が来てました。

知らない間に満月は
やせては消えて、
消えてはあらわれて。


この頃は
前に進むことばかり
考えるのをやめました。


「嘘をついてもばれるものです」
といったのは、
亡くなってしまったCM作家
夢もないのに夢は売れないと。


振り返り、自分自身。
豊かな心を無くしておりません。
素直な心を無くしておりません。


などと、
自分に言い聞かせるほど、
つらい嘘もありません。


月の満ち欠けはとまりません。
早く素直にならないと。