patina「緑青」2

その時私は自然とはなにか、
生きるとはなにか、と考えていたのです。
好んで禅問答はするものです。
それが私の流儀です。
すると、いつか現われた時の番人が
タバコの煙とともに突然姿を見せました。
(そうそう、時の番人とはイスラームの世界で言う
超自然の存在「ジン」のようなものです。)


時の番人は、私の前でおもむろに胸を張るのです。
その姿はふてぶてしい。
まるで、親切を押し付け、
自己陶酔する奇っ怪な人のように。


番人はおもむろに水色の紙を取りだし、
するりと私に渡すのです。
その紙には、
「特賞! 夢の国3泊4日ご招待」
と書いてありました。
番人の顔をのぞき込むと、
番人は読んでの通りだと言う顔をし、
ことさら得意げです。


特に望みもしないその招待券には条件がありました。
「自分により似ている人を3泊4日で見つけ出すこと」。
さらに、期日内に探し出せない場合は、
「時をさまよう時空の無法者に化す」
という恐ろしいペナルティ付きです。


番人の思惑が何処にあるのか、探ろうと思いましたが、
得意満面の番人はただの誰かの使い。
私はそれ以上の詮索をやめ、
あろうことか、従うことにしたのです。


だっておもしろそうではないですか。
私を探すのです。
自分探しはとっくにやめていましたのに。
思わぬ所で青春の日々が蘇ったみたい。


すなおさと愛嬌があればこの世は渡っていけるという、
賢母の教えをこの年まで守り通してきた私は、
時の番人からその招待券を素直に頂戴したのです。


さて、その方法です。
まず、白い服を着て、
街の中で一番高い鉄塔の下に行き、
番人の仲間の誘導に従い、鉄塔によじ登り、
鉄塔のてっぺんで待ちかまえているまた違う仲間に券を渡す。
電線づたいにゴンドラに揺られ、15分たった所で、
1分間息を止め、目をつぶること。
嘘のようなその経路に感心しましたが、
感電しないようにとの注意に、
身の毛がよだち、気も引き締まるのでした。


余談ですがここで、はたと思いました。
番人にも仲間がいて、各々仕事をしているのだと。
番人たちは合理的に組織化されていて、
時空をさまよっているのだと。


いやいや、そんなことより、夢の国です。


私は一度家に戻り、
言われたとおりに白い服を着て、
最近できた近所の高い鉄塔の下に行き、
くだんの方法を実行に移しました。


それで、たどり着いたのがココだったというわけです。