patina「緑青」1

私はとある偶然から夢の国へ行きました。


その国が何処にあるかといいますと、
高架線の鉄塔の頂上からゴンドラに乗って、
電線づたいに揺られて、たどり着いたどこかです。
古都鎌倉の時空をさまよう谷戸の中かも知れませんし、
空と海がくっついてできた結晶体の中かも知れません。
あるいは水の中に沈んだ縄文遺跡だったかも知れません。


たどり着いた国には街がありました。
車は走っておりませんでした。
そのかわりといっては変ですが、
目を合わすととたんにキレる、
短気な日本猿の警官が、スタバのようなカフェの前で
タバコをぷかぷか吸っていたり、
虫眼鏡を持った奇妙な猫の集団が
道端の草を盛んに観察していたりしています。


人間もいましたが、その大抵は、
いばりん坊の子供のような人たちで、
なぜか体を斜めに傾けて、
あれこれと、つぶやきながら歩いています。
ふと見渡すと、そんな人がたくさんおりまして、
そのつぶやきは響きあい、
小学校の音楽室から漏れてくる
子供たちの合唱のようにも聞こえます。



ところが、子供に見えた人たちはみな成人だったのです。
びっくり仰天です。
よくみると、中には大人の姿の人もおりました。
小さい人も大きい人も年齢が分かりません。
私は目を凝らしてその人々を眺めたのです。



私はこの中からある人を探しださなければなりません。



きてれつなこのお話のはじまりは、
すこぶる美しい、とある晩下の河原ではじまりました。
いつもの河原で私はタバコをふかしていたのです。
ぷかぷかと。