グッドラック

ある日、若い青年とサシで飲みました。
恋する気持ちのあれこれを、
彼は幸せそうに話すのでありました。

いままさに恋です。

2つ年上の女性に恋焦がれているのです。
紅潮し、蒸留された思いを伝える言葉は、
耳を塞ぎたくなるほど恥ずかしいものでした。
あふれ出た女性への賛辞は、
焼鳥屋の油っぽいテーブルの上で
躍っており。

しかし。
聞くほどにその恋は成就できないと思われる。
むしろ彼は嫌われているのじゃないか。


嗚呼 しかし。
彼には崇高で希望にひた走る光景が見えているのです。
彼女はほとんど彼の手中に収まったという、その物言い。
これは現実的なことだと彼は言う。


「いや、それは可視ではないよ」


咽まで出かけたその言葉は、
焼き鳥の串入れの中で絡まり、
まごついた。


どんなものか。


寝ても覚めても好きな人を思う。
体も脳も鼓動も汗も、恋する熱情で作られる。
息もつけない微熱の欲望。


それならば、グッドラック。
恋に秘術はないものです。


グッドラック。
グッドラック。